コロナ第5波も落ち着き、少しずつこれまでの日常に戻りつつある今日この頃。僕は高速バスと飛行機を乗り継いで島根県の出雲を訪れています。
画像引用:熱源プロジェクト(https://umi-kaido.com)
今日から2日間で開催される、日本財団が取り組んでいる“海と日本プロジェクト”の1つである「熱源サミット」に参加するためです。
日本全国から集められた61人の「熱源人材」。その61人が島根県の出雲に集まるこのイベントに、僕も長崎県代表として参加することになりました。
以下は公式ホームページから引用した熱源の定義です。
“熱材”=ムーブメントの“火種”
豊かで美しい海を未来へー
“熱い”おもいをもち、
社会を変えるムーブメントの“源”となる人材を、
私たちは“熱源”と呼んでいます。
出典:熱源プロジェクト(https://umi-kaido.com)
長崎にもたくさんの「熱源」さんがいらっしゃいます。今回はたくさんある「長崎の熱源」を代表して、長崎の魅力を全国に伝えてきます。
今回は、僕が考えている日本の海の可能性についてまとめました。熱源サミットにご参加いただく熱源人材の皆様や、水産・海洋分野に携わるすべての方に読んでいただきたい記事です。
水産・海洋分野について勉強している21歳に若者が未来の海洋についてどのように考えているか、ぜひご覧いただき、感想やコメントを頂けますと嬉しいです。
僕が考える日本の海の可能性
安倍内閣(当時)の安倍晋三首相は平成27年7月20日に開催された海の日の記念式典で、以下のように述べました。
海底資源開発に従事する技術者(海洋技術者)を、現在の2000人から2030年までに5倍の1万人に増やす、というものです。政府が海底資源開発の産業規模について数値目標を掲げるのは過去に例がなく、当時のニュースを見ていた当時中学3年生の私は「海洋開発が我が国の今後の成長戦略の切り札になる」と直感しました。
そして自分で調べていくと、日本は世界6位の広さの海を持つ海洋国家でありながら、実は、海洋開発の産業化という分野ではヨーロッパやアメリカに大きく出遅れていることがわかりました。これまでの海洋資源のメインとなっていた「天然ガス」などの分野に関わることができなかったからです。
これまでは劣勢だった日本の海洋技術分野ですが、これからは大きなチャンスがやってきます。それはメタンハイドレート(エネルギーとなるメタンガスが氷になったもの)や銀や銅などの鉱物資源が含まれる「海底熱水鉱床」が日本近海に大量に埋財されていると判明したからです。しかし、海底から資源を掘り起こすことが技術的に非常に難しく、世界中で研究が進められています。もし、日本で海底資源を取り出す技術が商業生産レベルで確立できれば、世界中の海底資源市場でシェアを獲得できると考えます。
それだけでなく、日本の「海洋再生可能エネルギー」分野にも大きな可能性を感じています。日本は国土の10倍以上の広い海を持っており、その広い海を使って洋上風力発電や潮流発電を設置していけば、昨年、当時の菅総理が宣言した2050年までに達成するという「脱炭素社会」の実現に大きく近づくと考えます。
このように、日本近海には無限の可能性が詰まっています。大量に埋財されている海底資源と、世界第6位の広さの海を持っていること。これを最大限に活用していくことが将来の日本を作っていくと僕は確信しています。
僕の夢は、水産の高等専門学校を作ること
先ほどご紹介した僕の理想像を実践していくためには、この分野に精通している海洋技術者が必要です。そこで、当分の目標を「未来の海洋技術者を育成すること」と定めて、高等専門学校と結びつけることができないかと思い、思考を深めることにしました。
高等専門学校(以下、高専と呼称)をwikipediaで検索すると、以下のように解説されています。
高等専門学校(こうとうせんもんがっこう)は、後期中等教育段階を包含する5年制(商船に関する学科は5年6か月)の高等教育機関と位置付けられている日本の学校。一般には高専(こうせん)と略される。 学校教育法を根拠とし「深く専門の学芸を教授し、職業に必要な能力を育成する」ことを目的とする一条校(いわゆる学校と呼ばれるもの)である。
主に中学校卒業程度を入学資格とし、修業年限5年間の課程のもと、主に工学・技術・商船系の専門教育を施すことによって、実践的技術者を養成することを目的にした教育機関である。
引用:Wikipedia 高等専門学校(https://ja.wikipedia.org/wiki/高等専門学校)
確かに、現地点で商船の高専はあります。商船学校で学ぶことができる「船を動かすスキル」はどんな時代になったとしても必要です。一度に大量の荷物を運ぶことは船にしかできないからです。
しかし、商船の高専では、海洋技術者に必要な知識である「海洋学・海洋生物学・海洋物理学・海洋環境科学・海洋浮体力学」を学ぶことはできません。
近い将来必ず、高度な学習ができる海洋分野の高専が必要になってきます。
僕は未来の海洋技術者を育成することが目的の、現在では存在しない学校を勝手に「国立海洋高等専門学校(略:海洋高専)」と呼称しています。この海洋高専を創設するために乗り越えなければならない壁について検討していきます。
そもそも、本当に海洋高専は必要なのか?
現状、大学には水産学部が設置されているところがあり、各都道府県にも基本的に1校は水産高校があります。一見すると海洋教育環境が整っていると思われがちですが、それでも海洋高専が必要な理由は「海洋に関わる人の数を増やす」ことと「中学校卒業後にスムーズに海洋分野へ進路選択できること」という2点が挙げられます。
大学生で、水産学を学んでいる学生は1000人に3人しかいません。割合にすると全体の0.3%。これは、全国の水産学部がある大学(北海道大学・長崎大学・鹿児島大学、そして大学全体で海洋分野を学ぶ東京海洋大学)の1学年の学生数を足して出てくる約2500人と、全国の大学生数725000人を割った数です。全体の0.3%の人数で、国土の10倍の広さを持つ海をフル活用できるはずがないと僕は考えています。
そして、二つ目の「中学校卒業後にスムーズに海洋分野へ進路選択できること」について。一般的に中学校を卒業すると高校に進学しますが、中学校卒業地点で海洋の分野に行きたいと思っている生徒は水産高校に進学するか、ひとまず普通科の高校を卒業して水産学部がある大学を受験する、という二択があります。しかし、水産高校は大学進学を前提にした進学校ではなく、職業訓練分野の授業を取り入れていることで卒業生のほとんどが就職という選択をしています。普通科に進学した生徒も3年間は水産とは程遠い普通教科を学ぶ生活になりますので、正直な話、その3年間がもったいないと思っています。
僕は色々な運やチャンスに恵まれて、水産高校から大学の水産学部へ特別な入試を経て合格しましたが、母校では20年ぶりの合格と言われるほど。20年に1回では、安定して水産学部に進学する環境が整っているとは言えません。
中学校を卒業したタイミングで、すぐにハイレベルな水産・海洋分野を学ぶことができる環境。そして希望者は水産系の大学3年生として編入学もできるようにする。このハイブリッドな環境が、海洋高専では実現できると私は考えています。
運営母体は国立。私立ではいけない理由
引用:長崎大学附属実習船 長崎丸(http://www.fish.nagasaki-u.ac.jp/FISH/FUZOKU/TS-NAGA/n_maru/main.html)
海洋高専を私立で運営することができれば、柔軟な教育カリキュラムを組むことができると思いますが、船や校内設備に莫大な予算がかかります。長崎大学水産学部の附属実習船である「長崎丸」は、建設費60億円、年間維持費1億円と言われています。それでも学生40人を収容すると満員になりますので、もっと大きな船を作るならば予算も指数関数的に伸びていきます。水産学部1つで他の学部が3つ運営できると言われる程の維持費を、私立で賄うことは現在の私の考えでは不可能に近いと思っています。
そのため、他の国立の高専と同様の位置づけにする必要があると考えています。
長崎で海洋高専を立ち上げる理由
海洋高専は、漁獲量日本一の北海道や、水産分野で有名な宮城県の石巻や静岡県の焼津ではなく、長崎に作るべきだと考えています。それは、海洋教育に最適な長崎の地理的環境と長崎は海洋再生可能エネルギーの実証フィールドであることが関係してきます。
長崎には、日本一の数である971の離島があります。そして、それらを含めた長崎が占めている海の広さはなんと九州本土全体に匹敵します。北から南までの多様な海洋環境、300種類を超える日本一豊富な魚種数、日本トップクラスの海岸線の長さを持つ海洋県・長崎は、五島列島の奈留瀬戸に日本一早い潮流もあります(現在、世界最大の潮流発電装置の実証実験中)。これらの長崎の資源を活かした海洋教育は、日本で最もハイレベルなフィールドを提供できると考えています。
さらに長崎県庁では、我が国唯一の水産部があり、県附属の総合水産資源場は長崎大学附属の環東シナ海環境資源研究センターと、農林水産省所管の水産技術研究所の3研究所が日本で唯一隣接しており、国・県・大学の水産研究所が互いに連携研究をスムーズに行えることから最高の研究環境も既に整っています。
そして、平成26年に内閣官総合海洋政策本部事務局が「実証フィールド」に最初に指定された6海域のうち3海域が長崎の海域であり、長崎は国が推す水産・海洋研究分野の最先端と言っても過言ではありません。
これらの長崎の資源や環境をフル活用した海洋技術者を育成することが、未来の日本を作っていくと僕は考えています。
終わりに
僕は公立の水産高校で水産業の基礎教育を受けてきました。そこでは「海の世界は答えが一つではなく、無数に存在することから、常にベストを尽くし続けることが大切」という考え方を学びました。義務教育で培われる「1つしかない答えを見出す能力」に魅力を感じなかった僕にとって救われるような考え方で、かつこの思考ができる人はこれからの時代に重宝されると思っています。
そして、同時に僕のように悩んだ人に対して、世界や答えの複雑性を教えることができる先生になりたいと思い、教員免許を取得するために大学に進学しましたが、そこで出会ったものは水産・海洋分野の無限の可能性でした。
僕が1つの学校に所属して1人の先生になって生徒に教えるだけでは、面白い時代に乗り遅れてしまう。だから1人の先生じゃなくて、1つの学校(海洋高専)を作らないといけないと思うようになりました。
無限の可能性を持つ日本の海をフルパワーで使いこなす未来の海洋技術者を育成する海洋高専を、僕は創っていきます。