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シビックプライド再考──SLOC的地域愛のつくりかた(SLOC WROKS総合研究所 note・2025年6月7日)
近年、地域づくりの文脈で「シビックプライド(civic pride)」という言葉が注目されています。この言葉は、単なる地元への愛着というよりも、市民一人ひとりが自分のまちに対して主体的に誇りと責任を持つ姿勢を表しています。シビックプライドは情緒的な概念ではなく、都市や地域社会の構造、制度、空間の設計とも深く関わっていると考えられています。
19世紀ヨーロッパでは、立派な建築物や広場が市民の誇りの象徴となっていました。また、20世紀後半のアメリカでは、地域社会における人々の関与の減少や共同体の崩壊とともに、市民的な誇りが薄れていく様子が研究されました。こうした背景からも分かるように、シビックプライドは個人の感情だけでなく、社会的・構造的な要素と結びついているのです。
現在の日本においては、都市への人口集中、ライフスタイルの多様化、移動の自由が進んだことで、「どこでも働ける」「どこにでも住める」という選択肢が拡がりました。しかしその一方で、「なぜここにいるのか」「この地域を誇る理由がわからない」といった声が若者を中心に増えてきています。地元に住んではいても関われる場がない、自分が関わってよいという感覚が持てないといった現状は、個人のやる気の問題というより、地域社会の構造の中に市民が関与する回路が欠けていることを示しているといえます。
こうした状況に対して、SLOC WORKS総合研究所では「SLOC(Small / Local / Open / Connected)」という4つのキーワードを軸に、地域との関係性を再構築するアプローチを提案しています。
Small(小ささ)の視点では、小さな商い、小さなクラブ活動、小規模な空間などが挙げられます。これらは参加のハードルが低く、市民の関与を促進する要素となります。
Local(地域性)という視点では、地域資源や土地固有の素材・風習と触れ合うことによって、その土地への愛着や誇りが育まれます。
Open(開放性)の視点では、未完成で余白のある空間や仕組みであるからこそ、人が関与しやすくなり、自然と関係性が生まれていきます。
Connected(つながり)の視点では、緩やかで多層的なつながりを通じて、地域との複数の関わり方が生まれ、多様な誇りのあり方が可能になります。
SLOCモデルでは、「地域に誇りを持つ人をどう育てるか」という問いに対して、空間・制度・文化という三つのレイヤーから具体的な方法を考えることができます。
空間的レイヤーでは、立派に整備された施設よりも、むしろ空き家や旧倉庫、公園、シャッター商店街といった未活用の空間が重要だとされています。こうした場所は、自らの手で整えたり、運営に参加したりすることで、関与の入り口となります。
制度的レイヤーでは、シェア施設の自主運営制度や地域通貨など、市民が制度づくりに関与できる仕組みを設けることが、誇りを自分ごと化するうえで重要となります。
文化的レイヤーでは、ローカルメディアやSNSを通じた発信、地域イベントの企画・運営などを通して、自分のまちについて表現する機会をつくることが、内在的な愛着を外に出し、他者と共有する手段になります。
このように、SLOCモデルは「まちを誇れるようにする」ための一方的なマスタープランではありません。それは、「誇りは、誰かが与えてくれるものではなく、自ら関わるなかで育まれるものだ」という考え方の実践なのです。地域を「どうすれば愛せるか」ではなく、「どう関われるか」という視点から出発し、市民の中に誇りが育っていく。これこそが、SLOC的なシビックプライドのつくりかたなのです。
「都市に誇りを持て」というのは、簡単だ。 だが、なぜそれが失われたのか、そして何をもって“再び育まれる”のか。 私たちは…