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自然資本を核にした事業戦略とは―循環型ビジネスの未来(NEW SCAPE・2025年5月14日)
20世紀型の経済は、成長を最優先とし、自然を無償の供給源と見なしてきました。しかし、気候変動や生物多様性の損失、水資源の枯渇などの環境危機が進行する中で、このモデルは限界を迎えています。現在、企業や社会は、自然資本の回復を前提とした「第二の近代」へと移行しつつあります。
自然資本とは、土壌、水、森林、大気、生態系など、人間社会と経済活動が依存する自然の構成要素を指します。これらが損なわれれば、農業、漁業、観光業、製造業、都市生活など、あらゆる分野が成立しなくなります。したがって、自然資本を「守り、再生し、生かす」ことが、今後のビジネスや社会活動にとって中核課題となります。
自然資本を核とする事業と資本主義的成長は、成長の定義を「量的拡大」から「質的進化」「価値の多層化」「再生能力の増大」へと転換することで、両立が可能となります。このような再生型資本主義(Regenerative Capitalism)は、自然と社会の健全性そのものを回復させる構造をビジネスの本質に据えることを求めています。
実際に、都市の再緑化、里山の再生、マングローブによる防災、生物多様性回復を起点とした観光振興など、自然を再生しながら新たな市場を生むモデルが世界各地で登場しています。
かつて環境配慮は「コスト」とされていましたが、現在では自然資本を収益源とするビジネスモデルが注目されています。例えば、再生型農業では、土壌の健全性を高めることで収量と品質が向上し、炭素クレジットの取得も可能となります。また、フィンランドのUPM社は、森林資源の管理を最適化し、生態系サービスを貨幣換算してバランスシートに計上することで、森林資産価値を増大させています。
さらに、ESG(環境・社会・ガバナンス)投資の拡大や、自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)の設立により、自然資本が財務上の重要な要素として認識されつつあります。欧州では、ネイチャーポジティブな事業に投資する自然資本ファンドが創設され、森林再生や生物多様性回復などへの資金流入が加速しています。
自然資本の再生には、金融だけでなく、企業や地域社会の主体的な取り組みが重要です。例えば、パタゴニアは再生型農業スタートアップを支援し、製品価格に「Regenerative Organic」の価値を上乗せしています。また、Blue Venturesは、アフリカやアジアの沿岸コミュニティと協働し、漁業の再建と海洋生態系の回復を進めています。
このように、自然資本を核とした事業戦略は、環境保全と経済成長を両立させる新たな道を示しています。今後のビジネスや社会活動において、自然との共生を前提とした持続可能なモデルの構築が求められます。
自然資本を前提に経済を再設計する「第二の近代」20世紀型の経済は、成長を至上命題とし、資源の大量消費と拡大再生産を軸に動…