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「ふるさと住民」制度創設へ 10年で1千万人登録目標(共同通信・2025年6月3日)
「ふるさと住民」制度とは、実際にはその地域に居住していない方であっても、地域に対して強い関心や愛着を持ち、継続的に関わる意思のある人を「住民」として受け入れ、地域づくりに参画してもらう仕組みです。この制度は、全国の地方自治体で導入が進められており、人口減少や高齢化といった課題に直面する地域にとって、新たな担い手を確保するための有効な手段とされています。
この制度の背景には、移住や定住といった従来の地域関与のあり方に限界が見え始めたことがあります。そこで注目されるようになったのが、「関係人口」という考え方です。関係人口とは、特定の地域に移り住むことはないけれども、継続的に関与し、地域と深い関係性を築こうとする人々のことを指します。ふるさと住民制度は、この関係人口を制度化し、地域とのつながりを明確に位置づけるものです。
制度の内容は自治体によって多少異なりますが、一般的には登録制度が設けられており、希望者は「ふるさと住民」として登録することで、地域との関係が公式に認められます。住民票を移す必要はなく、本籍地にも影響はありません。登録者には「ふるさと住民証」や「交流証」などが発行される場合もあり、制度に対する当事者意識や帰属感を高める工夫がなされています。
ふるさと住民は、地域で開催されるイベントやボランティア活動、観光プロモーション、農業体験、特産品開発など、さまざまな地域活動に参加することができます。近年では、インターネットを通じた会議や意見交換にも参加できるようになっており、地理的制約を超えた関わり方が可能になっています。また、一部の自治体では、ふるさと住民に対して宿泊費の補助、地元産品の割引販売、地域情報の定期配信など、活動を支援する特典を用意しています。
実際の導入事例として、島根県雲南市では、ふるさと住民制度を通じて全国から登録者を募り、地域活動への参加を呼びかけています。登録者のプロフィールは市のウェブサイト上でも紹介されており、地域住民とのマッチング支援も行っています。熊本県小国町では、「バーチャル町民制度」として、地域外からの参加者を町民として迎え、イベント情報や町の最新ニュースを定期的に配信しています。また、長野県小布施町では、「小布施町民プラス(+)」と称して、町外に住む人々も地域の公式な住民として歓迎し、オンライン会議などを通じた町政参加も可能にしています。
ふるさと住民制度には、さまざまな効果が期待されています。まず、地域外から新たな視点やスキルを持つ人材が流入することにより、地域内の活性化や課題解決が進む可能性があります。また、外部からの関わりが地元住民の意識を刺激し、地域の再評価や自信回復につながることもあります。さらに、ふるさと住民が地域と長期的な関係を築くことで、将来的な移住・定住につながるケースも出てくると考えられています。
一方で、制度の導入と運営にあたっては課題も存在します。たとえば、地域の既存住民とふるさと住民との信頼関係の構築には時間がかかります。また、活動への参加が一部の人に偏ると、継続的な取り組みが難しくなるおそれもあります。加えて、制度の目的やふるさと住民の役割を明確にし、登録者に伝えることが重要です。
このように、「ふるさと住民」制度は、定住人口に頼らない新しい地域づくりのアプローチとして注目されています。地域外に住む人々と地域との間に持続的な関係を築きながら、地域資源や人材を活かすことで、持続可能な地域社会の構築を目指すものです。今後は、さらに多くの自治体での展開が期待されています。