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【連載】海の分野について、考えていること。

 

私の専門の1つである「海」について、日々考えたことを連載していきます。

 


 

海は全体を一つに結びつけることができる。「海の心」を取り戻した世の中を作りたい。(2025年4月29日)

「海の心」とは、あらゆる個性を包み込み、全体を一つに結びつけることのできる、広くおおらかな心――すなわち菩提心のことです。どうか、無数の河の流れがあらゆるものを運んで注ぎ込む「海」を想像してみてください。「海」は、そこに流れ込む数え切れないほどの河の流れを、そのまま受け入れて一つにまとめあげる力の象徴です。

谷や野を駆け巡ってきた無数の川は、さまざまなものを運びながら「海」へとたどり着きます。「海」は、それらすべてを拒むことなく受け入れ、調和させ、ひとつに結びつけているのです。こうして「海」は、異なるものを受け入れ、浄化し、ひとつの生命として再生させていく包容力を持っています。これこそが「海の心」であり、私たち人間社会にも、そして一人ひとりの生活の中にも、いまこの「海の心」が強く求められています。

現代の世界は、あまりにも「違い」に満ちています。そしてその「違い」によって、人々の心が乱され、分断が生まれています。違いはしばしば違和感を呼び起こし、それが偏見や差別、さらには憎しみへと変わってしまうのです。

私たちは本来、同じ人間であり、同じ魂をもつ存在です。しかし、この世界に生まれるという経験によって、その共通性を私たちはいつの間にか忘れてしまいます。人生とは、そもそも「違い」に満ちたものです。私たちのものの見方や価値観は、「血」――両親から受け継いだもの、「地」――生まれ育った地域や文化によるもの、そして「知」――時代や社会から得た知識や思想といった三つの「ち(血・地・知)」によって形づくられています。

自分と他人の「血」「地」「知」が異なることに、どれほど多くの人が違和感を覚え、どれほどそれが反感や憎しみに変わってしまってきたことでしょう。しかし、もし私たちがこの「違い」をまるごと包み込む「海の心」を持つことができれば、もう一度、互いが同じ人間であり、同じ魂の存在であることを思い出すことができるはずです。

もし、あなたがいま受け入れがたいものを心に抱えているならば、どうか広い海原を思い浮かべてください。誰かに対して反感を覚えているときは、すべてを受け入れる「海」の姿に、あなたの心を重ね合わせてみてください。人は誰しも、自身の内に始源の「海」を抱いているのです。

潮の流れのように静かな時間を、どうか心の中に呼び戻してください。潮の満ち引きのような穏やかな呼吸を、どうかもう一度取り戻してください。わたくしたちは「海」から生まれ、「海」に還っていく生命の一部であることを思い出させてください。

私は、「海」のように広く深い心を育みたいと願っています。あらゆる個性を受け入れ、すべての違いを調和させて、全体を一つに結ぶことができますように。どうか、限りない受容の力を私たちの内に引き出してください。どうか、限りない包容の力をこの世界にあらわしてください。

 


 

「変わらないこと」がリスクになる今の時代を逆手に取り、持続可能な漁業に挑戦したい。(2025年4月6日)

今、私たちは「変わらないこと」そのものがリスクになる時代を生きています。持続可能な漁業を実現するには、変わりゆく海の状況に合わせて、“人のやり方”も進化させていく必要があると考えています。

事実として、“海は変わっている”のです。たとえば、青森県ではサケの漁獲量がピーク時の100分の1にまで減少し、一方で北海道ではこれまで獲れなかったブリが獲れるようになっています。これは、気候変動や海水温の上昇、海流の変化などにより、魚の分布が大きく変わってきていることを示しています。

しかし、こうした変化が顕著になっているにもかかわらず、水産業の現場では、全国的に「変わらない」やり方が続けられている地域が少なくありません。かつて安定をもたらした伝統的な漁法や漁場へのこだわりは、今ではむしろ不安定な収入や資源の枯渇を招く要因になりつつあります。つまり、「変わらないこと」が、不安定の原因になっているのです。

「先祖代々の海を守る」という価値観は尊いものです。しかし、その海自体が変質している今、守るべき“方法”も変えなければ、本当に守りたいものを守れなくなってしまいます。

私が大切にしている「変化に適応すること」は決して「伝統を捨てること」ではなく、むしろ、「伝統を未来につなぐための挑戦」だと捉えています。

たとえば、IoTやAIを活用したスマート漁業、資源を守る“とる漁業”から“育てる漁業”への転換など、すでに“伝統と技術の融合”は少しずつ始まっています。これからは、“育てる漁業”とあわせて“変化に対応できる漁業”を取り入れていくことが重要だと感じています。

だからこそ、私は変わりゆく海に対して、「どうすればこの漁業を残せるのか」を、漁業者の皆さんと一緒に考えていきたいです。そして、漁業に関わる人々が幸せに生きていける未来のために、海の資源を最大限に活用していきたいと思っています。