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ソーシャルデザインとは何か?

 

ソーシャルデザインとは何か。この問いに対して、1人のソーシャルデザイナーの視点で回答します。

 

 

「ソーシャルデザインとは、社会の課題に対して、創造的に応答することである。」

 

 


 

社会を変える「仕組み」をつくるデザイン

ソーシャルデザインとは、社会的な課題を解決するだけでなく、人々の暮らしの中に新たな価値を生み出し、持続可能でより良い社会の仕組みをつくるためのデザインのことです。単なるモノやサービスのデザインを超えて、社会全体に働きかけるシステムそのものを対象とします。

この考え方は、専門のデザイナーに限らず、誰もが日常の中で担うことができる重要なアプローチです。なぜなら、社会を変える出発点は、常に「自分ごと」から始まるからです。

 

原点となった人物:ヴィクター・パパネック

ソーシャルデザインを語る上で欠かせないのが、デザイナーであり教育者であったヴィクター・パパネック(1927〜1998)の存在です。1970年代、消費社会が加速し始めた時代に出版された彼の著書『生きのびるためのデザイン』の中で、「デザインのまずい品物や構造物で地球そのものを汚すのをやめなければならない」と警鐘を鳴らしました。

パパネックは、デザインが社会に与える影響の大きさと、デザイナーの社会的責任をいち早く指摘した先駆者です。彼の思想は、環境や倫理を重視する21世紀のデザイン観へと受け継がれ、再び注目を集めています。

 

ユネスコの定義と現代的な広がり

ユネスコは、ソーシャルデザインを「Better design for the greater good(より大きな善のための、より良いデザイン)」と定義しています。これは、個人の利益や利便性だけではなく、社会全体にとっての善を考える姿勢を示しています。

日本では「more trees」の活動が好例です。森との関わりを継続的に促す仕組みをデザインすることで、単なる商品開発を超えて、人々と自然との新たな関係性を築いています。このように、ソーシャルデザインの目的は一貫して「より素敵な社会をつくること」にあります。

 

社会課題の複雑化と、20世紀型システムの限界

現代社会には、過労や孤立、精神疾患、自殺などの社会問題、気候変動や森林伐採、放射性物質による土壌汚染といった環境問題、さらには金融危機などの経済問題が山積しています。これらの課題は一見バラバラに見えますが、根本を探ると20世紀的な「経済性と効率性を最優先する仕組み」が共通の原因となっていることが見えてきます。

こうした時代の限界に対し、私たちが今本当に必要としているのは、社会の仕組みそのものを根本的に「アップデート」することです。

 

対症療法ではなく、原因療法としてのアプローチ

ソーシャルデザインは、短期的な「対症療法」ではなく、課題の根本原因に向き合う「原因療法」の考え方をとります。表面的な問題だけを解決しても、時間が経てば再び別の形で問題は現れます。

そこで大切になるのが、関係するすべてのステークホルダーを想像し、社会や環境の状況をホリスティック(全体的)にとらえる視点です。本質的な課題の構造を読み解き、仕組みそのものを再構築することが、ソーシャルデザインの目指すところです。

 

「私の物語」から始まるデザイン

社会を変えるアイデアの多くは、自分自身の強い問題意識や、他人に任せることができない「自分ごと」から生まれます。たとえば、

・時間を忘れるほど熱中できたことは何か?
・他人に任せられない、どうしても関わりたいと思うことは?
・幸せになってほしいと思う大切な人は誰か?

こうした問いに対する答えが、ソーシャルデザインの原点です。

プロジェクトを実現する力の源は、「自分自身である」という実感(=オーセンティシティ)です。目の前の課題(What)に取り組む前に、自分はなぜそれをやるのか(Why)を深く掘り下げることが大切です。その人にしか語れない原体験や物語があるからこそ、人の心を動かし、社会にインパクトを残すデザインが生まれます。

 

行動を変えるのは、「楽しい」という力

人々の行動を変えるためには、「楽しい!」という感情の力を軽視できません。楽しいことはポジティブな連鎖を生み、人々の行動を自主的に変えていきます。ネガティブな義務感よりも、ポジティブなワクワク感が持続的な変化を促すのです。

 

一石二鳥以上のグッドアイデアを

良いソーシャルデザインの特徴には、次のような共通点があります。

1.サプライズがある — 予想外の展開や新しい気づきがあること
2.思いやりや愛がある — 人のために何かをしたいという気持ちが伝わること
3.複数の課題を一気に解決する — 社会、環境、経済など多方面に波及効果があること

 

これからの「新しい当たり前」をつくるために

ソーシャルデザインは、行き詰まった「古い当たり前」を塗り替え、誰もが希望を持てる「新しい当たり前」を私たちの暮らしに定着させる取り組みです。それは、特別な専門家に任せるのではなく、私たち一人ひとりが自分の原体験から出発し、主体的に関わっていくプロセスです。

いま、私たちに求められているのは、思いを形に変える力。小さな「なぜ?」から生まれるアイデアが、社会を変える大きな一歩になるのです。

 


 

ソーシャルデザインをさらに深堀した記事は こちら から。

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